ざくっ ざくっ

スコップで掘り返した砂地は、抉った先からまた砂に埋もれる。

皺のよった手の甲や顔、ちょっと痩せた体を見る度に思う。
私は間違っていない。
オアシスはまだ涸れてはいないのだと。

誰もが見捨てたこのユバで、一人砂を掘り続ける父を、息子は見ていられないと言った。
いや、言いはしなかったが、目がそう訴えていた。
父親のこんな姿は見ていられないと。
王様を信じ続けて良いのか?と。
オアシスはとうに涸れてしまったのではないか?と。

…馬鹿にするな。

私は、私の信じる道を進んでいるだけだ。
オアシスを取り戻し、かつてのユバを蘇らせる。
それが私らの勤めではないか?息子よ。
私達はユバを任されたのだ。
日照りが続いて、砂嵐に幾度も襲われようとも、ここを守るのが私達の仕事だ。
失ったかつての村の代わりに、王様が与えて下さった新たな土地。
ここを豊かな地にするかどうかは、私達の仕事であって、王様の問題ではない。
託されたことに応えないで、何が、反乱だ…。
何が、信じられないだ。

…愚かなのは、お前達だ。

反乱は国を一層混乱させる。
人を死なせる。
飢えさせる。
戦いで渇きを癒す事など出来ないのだ。
国を愛しているのならば、気が付くのだ。
おかしいのは、王様ではなく、お前達。
反乱は人を追い詰めるだけだが、オアシスは人を潤す。
どちらがより無意味か、考えろ、血気盛んな若造ども。
死ぬ気だったら、銃ではなく、シャベルを持て。
たとえ馬鹿でどうしようもない若造でも、死ぬほどの覚悟をもってすれば、ちょっぴり痩せこけたオヤジなんぞよりも。
少なくとも体力だけはあるだろう。
そうすれば、オアシスはもっと早く蘇る…。

「もう、君しかいないんだ!」

すがってしまった、一人の少女に。
醜態だ。
頼るべき家来もなく、あんな少数の海賊達と行動を共にしている王女に、私は何を言った。
どうして、頼った。
何故、涙なんか見せてすがりついた。
だが、息子は私の言葉に耳を貸さなかった。
何度も何度も止めたのに。
私のやつれた姿がお前を苦しめているのは分かる。
なら、何故、ともに砂に塗れてくれない。
何故、ともに約束を全うしようとしてくれない。
…若いのだ。
お前達は若過ぎるのだ。
若過ぎて、自らの内にある衝動を押さえる事が出来ないのだ。
王女の笑顔に希望を見た私も、また、弱いのかもしれん。
重い荷を進んで背負おうとする辛い笑顔でも、私には救いだった。

それに比べて、何という醜態…。
何という、弱さ…。

あぁ、私は明日も掘ろう。
オアシスはまだ涸れてはいない。
この皺の一つ一つに意味があるように、これは私の仕事なのだ。
王女は笑ってくれた。
その下に隠された涙のように、水は掘り起こされるのを待っている。
ユバは私達の大切な土地。
希望は捨ててしまった時に、意味を失う。
夕べ、湿った地層に辿り着いた。
今日こそは、いや、明日でも明後日でも何年先だろうと構わない。
ユバは、オアシスは必ず甦らせよう。
あの笑顔に応えるためにも、私は私の仕事を全うする。

ざくっ


「王女と海賊」のアリノリ様のフリーSS。
真摯に
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