「で、どっちなの?」
と、ナミさんが尋ねた。
唐突な質問の意図が読めなくて、思わず尋ね返す。
…あの、『どっち』って、どういうイミでしょうか?
「どっちが本命なのか、ってイミに決まってんでしょうが」
しれっと言うナミさんに、焦ってしまう。
……あの〜、いつからそういう話になったんでしょう??
「バカねェ、最初っからに決まってんでしょ!」
ヘイゼルの眸が、キラッと光る。
からかってますね?ナミさん。
『おれ、ビビが好きだぞ!』
ルフィさんが、言う。
でも、ルフィさんの「好き」は「仲間」の好き。
彼は「イイ奴」で「スゲェ奴」しか仲間にしない。
そして、どういうワケか彼の中で私は「イイ奴」で「スゲェ奴」ならしい。
Mr.ブシド−や、ナミさんや、ウソップさんや、サンジさんや、トニ−君と同じように。
ルフィさんにとって、仲間はみんな自分のモノ。
そして、ルフィさんは仲間みんなのモノ。
…みんな同じ、「好き」
……え?
ええ。私も、ルフィさん好きですよ。
初めの頃は、彼が船長だなんて何かの冗談だと思ったくらいだけれど
今は、わかる。
彼は凄いヒトだって。
ナミさん達が自分の夢を預けるのに相応しい船長だって。
いつかきっと、皆といっしょに“ワンピ−ス(ひとつなぎの大秘宝)”を見つけて
海賊王になるんでしょうね。
……私は、彼のその姿を見ることは出来ないだろうけれど……。
『愛しのプリンセス、本日のスペシャルデザ−トをどうぞvv』
サンジさんが、言う。
でも、サンジさんの「愛しの」は、世界中の全ての女性へ捧げる「愛」。
自分のコトをレディ−に仕える騎士だと言ってのける彼にとって
ホンモノの王女である私は「放っておけない」存在なのだろう。
それに、私はナミさんと違って彼独特の社交辞令にも、ついつい反応してしまうから
サンジさんには、「からかい甲斐のある女のコ」なのだと思う。
フェミニストを自認するラブコックさんは、いつも優しい。
…女性なら、誰にでも。
……別に、イヤじゃないですよ?
サンジさんがチヤホヤしてくれるのは。
初めの頃は、ウィスキ−ピ−クで賞金稼ぎの女の子達を20人も一度に
口説こうとしたりして、軽いヒトだなぁとは思いましたけど。
ナミさんの言うとおり、あれが彼の『趣味で生きがい』なんでしょうね。
ただ、分かり易いような、よく分からないような、不思議なヒトだなとも思うんです。
あ、でも。
いつも『愛しのナミさん、愛しのビビちゃん』じゃないですか?
……べ、べつに、ソレを気にしてるとかじゃありませんけれど……。
「ふ〜〜ん。なるほどねぇ」
大粒のア−モンドのような眸で、ナミさんは私をじっと見つめていた。
* * *
「…まあ、予想はしてたわよ。あのコの答えぐらいは…」
トラブルメ−カ−ばかりのクル−を積んでいるとはいえ、そうそう冒険が続くワケもなく
今日ものどかなお昼寝日よりのGM号に響くのは、同じ名を呼ぶ二つの声。
「ビビ〜!!」
「ビビちゅわ〜〜んvv」
一輪の花に群がる蜜蜂……というよりは、
さながら遊び盛りの子犬と淋しがりやな猫が、優しい御主人様を取り合うの図。
それが証拠に超カルガモまでが割り込んで、空色の髪のまわりをぐるぐる回る。
「…だから、アイツ等は互いに張り合うより先に、あのコに自分の気持ちを
理解させなきゃダメなのよね」
けっして、脈が無いワケでもない。
それは、わかっているハズだ。
ぐるぐる ぐるぐる
「やめてやめて、ルフィさん、カル−!サンジさんまで…!
目が回っちゃうわ…!!」
弾けるような、笑い声。
3人+1羽で、なんだかやたらと楽しそう。
「…っていうか、アイツ等、あれでも張り合ってるつもりなのかしら…?」
工場(ファクトリ−)でアヤシゲな実験をしていた狙撃手や
男部屋で医学書を読んでいた船医も加わって、いつのまにやら鬼ごっこ
見張り当番の剣豪は、マストの上で甲板の様子をチラリと見下ろし、大あくび
なべて、世はコトもナイ午後。
………今のままが、一番イイ。
「…それも、わからなくはないけどね」
『好きだ』と『愛しの』を大盤振る舞いする男二人と、
そのコトバにくすぐったそうに苦笑する女一人。
なのに「三角関係」と呼べるモノやら、奇妙で微妙な構図を眺めながら
みかん色の髪の航海士、溜息一つ。
「…これじゃあ、賭けになんないわよ」
……で、賭けるなら、どっち?
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